2025年4月版 建設業従事者の「働きやすさ」「働きがい」に関する調査レポート

はじめに

スパイダープラスでは、法適用までの1年半である2022年に建設業従事者に対する調査分析を始め、2024年4月、同年10月、そして2025年4月まで同様の取り組みを続けている。
コーポレートアイデンティティとして「&Co.ともに」を掲げる当社は、保温断熱工事業者から始まり、2010年より建設DX事業を開始、2021年には株式上場を果たし、現在に至る。その間、事業の成長は常に建設業界の直面する課題とともにある。

本レポートでは、自社サービスの営業活動から少し離れたところから働きやすさや働きがいの変化について調査・分析した内容を公開する。
建設業界には2024年4月に働き方改革関連法が適用され、このことは建設業のデジタルツール導入など、いわゆるデジタル推進の外的要因の1つであったと言える。

一方、当社が事業を通じて建設業の皆様とお付き合いを続ける中で、デジタルツールの導入が万能策というわけではなく、長らく続く人手不足問題など、数々の業界課題が継続する状況下で少しでも状況を改善していこうとする建設業従事者の姿は常に目の前の現実である。
また、今回、2025年4月度の調査では女性の回答者が初めて500名を上回った。

国勢調査」の結果から建設技術者数の男女別の推移をみると、女性建設技術者は2010年の2万4,700人から2020年には4万5,710人となり、10年間で85.1%の増加率を示し、技術者の女性比率も5.4%から9.0%まで大幅な上昇を続けている。
国土交通省の定期発表にも見られる通り、これまで業界団体などを中心に女性の就業と定着について取り組みが続いた結果の影響と考えられる。

よって、この調査においても新たな働き手である女性の働きやすさについても取り上げ、業界全体の持続と改善のためのヒントを見つける手がかりとしたい。

調査結果と分析

調査概要

  • 実施時期:2024年4月、10月、2025年4月
  • 対象業種:建築、土木、設備、設計の建設業従事者
  • 対象地域:日本全国
  • 対象年代:20-60代
  • 対象人数:2,500名
  • 調査方法:インターネット調査

「やりがい」と「待遇」が仕事の楽しさを左右する

働きやすさとその背景

「現在仕事をしていて、働きやすいと感じていますか。」との問いに対して「はい」を選択した回答者は3度の調査で増加傾向にあり、特に2024年4月度から2025年4月度の1年間では9.0pt増加している。

では、回答者たちの働きやすさの内訳について、その推移とともに見ていこう。
以下は働きやすさを感じる環境的要因について、当てはまるものを3つまで選択してもらった結果とその推移である。

働きやすさについて「デジタルツールの導入」は2024年10月度から2025年4月度の半年間で3.5pt減少しており、変わりに「トイレや休憩室が男女で分かれている」ことが継続して増加傾向を見せている。

3回の調査で最多の選択肢は「事務所が綺麗に保たれている」であり、2024年10月度から2025年4月度で0.8pt減少したものの、2024年4月度から2024年10月度の半年間では5.7pt、同年4月度からの1年間でも4.9pt増加している。

従事者が働きやすさを感じやすい組織ではデジタルツール導入については対応が進み、「処遇の改善」に従事者たちの関心が移っているのではないかと推測される。

「働きやすい」と感じている従事者とは反対に、選択肢のうち最も大きな割合を占めているのは3回の調査全てで「デジタルツールが導入されていない」であり、特に2024年4月度と2024年10月度の間では15.0ptと大きく伸び、2025年4月度にはさらに2.5pt伸びている。

また、「トイレや休憩室が男女で分かれていない」は、3回の調査で増加傾向が続き、特に2024年と2025年の4月度1年間では5.8pt増加している。

これらの結果から、従事者たちが働きやすいと感じる環境づくりには、物理的な施設の整頓やプライバシーの確保などの処遇、デジタルツールの導入が重要であると考えられる。

働きやすさを既に感じている従事者の関心はデジタルツールの導入から処遇の問題へと移っているのではないかと推測する。この点については調査を継続することによってさらに分析していきたい。

環境的要因に続いて、制度に関する要因を調べてみると、回答の内訳は以下の通りである。

「急な休みに対応できる制度がある」が連続して増加傾向にあり、中でも2024年4月度から2025年4月度の1年間では6.0pt増加している。

「長時間労働に対応する制度がある」と「労働法規に関する啓発・学習機会がある」はいずれも2024年10月度をピークに減少している。

現在仕事をしていて働きやすいと感じていない回答者による理由とその推移は以下である。

働きやすいと感じない理由のうち、増加傾向を見せたのは「労働法規に関する啓発・学習機会がない」であり、2024年4月度から2025年4月度の1年間では7.4pt伸びている。

「急な休みに対応できる制度がない」であり、2024年4月度から2025年4月度の1年間では1.9pt伸びている。

また、「長時間労働に対応する制度がない」は2024年4月度をピークに減少傾向にある。

これらの結果から、従事者が働きやすいと感じるための制度面について以下のように分析する。

急な休みに対応できる制度は必須

「急な休みに対応できる制度がある」と感じる人が増加していることは、企業側が柔軟な勤務体制を整えつつあることを示しています。

「急な休み」の発生はいわば点の出来事とでもいう突発事項であるが、そうした点に対応できる組織であるか否かが、従業員の長期的なワークライフバランスという面の形成にあたって重要であると考えられる。

長時間労働に対応する制度と労働法規の啓発活動の減少に見る、業界取り組みの効果

これらが2024年10月度をピークに減少傾向にあるのは、法適用に備えて建設業全体が改善取り組みを続けたことに対して結果が出始めていると考えられる。

引き続き推移を調査することによって結論づけたい。

働く楽しさの大きなポイントは「やりがいがある」こと

「普段仕事をしていて楽しいと感じますか」という問いに対し、「はい」を選択した回答者の割合は2024年4月度、10月度、2025年4月度と連続して増加傾向にあり、特に2024年4月度と2025年4月度の間で6.3pt増加している。

では、従事者たちの「仕事が楽しい」という感覚の内訳は一体なんであろうか。
以下はその結果である。

「やりがいがある」は3回の調査で突出して多くの割合を占めている。

2024年10月度から2025年4月度では2.9pt減少してはいるものの、他の選択肢に比べて過去2度と同程度の割合を占め、今回も最多である。

「待遇に満足」は24年4月度から25年4月度の1年間で3.5pt増加している。

建設業界では2024年4月の働き方改革関連法適用をきっかけとして月あたりの労働時間管理や休暇にまつわる改善施策が続いており、建設業全体の取り組みが従事者の実感として反映されていると考えられる。

「待遇への不満足」「やりがいの欠如」が働く楽しさを低くしてしまう

一方、「普段仕事をしていて楽しいと感じますか」という問いに対し、「いいえ」を選択した回答者の割合は「はい」を下回るものの2025年4月度でも4割を超えている。
内訳は以下の通りである。

「待遇に不満足」が3回とも最も多く、特に24年10月度から25年4月度の半年間では3.3pt増加している。

「やりがいがない」も3度の調査全てでワースト2位の選択肢となった。

「体力面で辛い」は2024年4月度から2025年4月度の1年間では1.3pt減少している。

これらの結果を分析した結論として、普段仕事をしていて楽しいと感じるか否かについて、その内訳は対称をなすものであり、「やりがい」を感じられることと、満足のいく待遇を得られることは引き続き重要であろうことが考えられる。

建設業への転職者と女性従事者の働きやすさ、働きがい

他業種からの転職が増加傾向、惹きつけるポイントは「待遇の良さ」

建設業では人手不足問題が恒常化している。
当社が複数の民間研究所発表の調査レポートにもとづいて独自に試算したところでは、2000年の従事者を1とした場合、2040年には-56%までに減少すると予測している。

厚生労働省が10月29日に公表した2024年9月分の一般職業紹介状況によると、建設業(採掘含む)の有効求人倍率は5.20倍であった。
全業種の平均が1.24倍であることを踏まえると、5倍近くの就業機会を抱えている。

それを踏まえて、回答者に「現在の直前は建設業以外に従事していたか」を聞いてみたところ、全体のうち「いいえ」を選択した回答者が多い一方で「はい」の割合が増加傾向を見せている。
特に、2024年4月度から2025年4月度の1年間では「はい」を選択した回答者は7.8pt増加している。

他業種にいた人間を惹きつけたのはどのようなものであったのか。
以下はその内訳である。

3度の調査で最多を占めているのは「良い待遇」であり、2024年4月度から2025年4月度の1年では5.3ptも伸びている。
内訳の中で「手に職をつけたかったから」であり、3度の調査では継続して増加を見せている。

他業種から転職してきた回答者のうち、「転職してくるにあたっての理由」を達成できていると感じている回答者はそうではない回答者を大きく上回っており、その割合も増加傾向を見せている。

2024年4月度 2024年10月度 2025年4月度
建設業に転職する理由を
達成できている
66.6% 67.7% 70.6%
建設業に転職する理由を
達成できていない
33.4% 32.3% 29.4%

また、転職してきた回答者のうち、現在の仕事の状況に満足している理由の内訳は以下である。

転職当初に大きな理由であった「待遇がよくなった」は最多を占めており、2024年4月度から2025年4月度の1年間では8.8pt増加している。

また、「やりがいを感じている」は3度の調査で25%前後を維持していること、選択肢の中では2番目に多い割合を占めたことから、転職者にとっても「やりがい」を感じることは、日頃働くことでの満足度に対して影響が大きいことがうかがえる。

このことから、他業種で働く人間にとっては、建設業の「待遇の良さ」と「やりがい」は魅力的に映る要素であり、定着のためにも重要であると考えられる。

女性従事者の働きやすさ/働きにくさのポイントに見る「女性特有の事情」とは

冒頭でも述べたように、建設業界では女性の労働者が技術職・事務職とも増加傾向にある。
2025年4月度調査の回答者のうち全体の33.3%、514名にのぼった女性従事者の働きやすさについて調査結果を掘り下げていきたい。

2025年4月度の調査において、「現在仕事をしていて働きやすい」と感じている女性は68.1%にのぼる。

その理由として最多を占めるのは環境的要因では「事務所が綺麗に保たれている」74.3%、続いて「トイレや休憩室が男女で分かれている」38.6%、「デジタルツールの導入」30.9%である。

働きやすい理由の制度要因では「急な休みに対応できる制度がある」が81.7%で突出しており、「長時間労働に対応する制度がある」は27.7%、「労働法規に関する啓発・学習機会がある」は18.0%であった。

現在働きやすいと感じていない女性従事者31.9%のうち、環境的要因の最多は「デジタルツールが導入されていない」51.2%、続いて「事務所が乱雑で整理されていない」39.0%、「トイレや休憩室が男女で分かれていない」33.5%であった。

現在働きやすいと感じていない女性従事者31.9%のうち、制度的要因で最多を占めたのは「労働法規に関する啓発・学習機会がない」59.1%、ついで「急な休みに対応できる制度がない」36.6%、「長時間労働に対応する制度がない」28.7%であった。

ライフステージ変化の影響を受けやすい女性従事者が働きやすいことは従事者全体の働きやすさでもある!

これらの結果を分析すると、職場環境の整備や制度の充実が女性労働者の働きやすさに大きく影響することがわかる。

特に、デジタルツールの導入や急な休みに対応できる制度の整備が重要であることが示されている。
デジタルツールの導入や急な休みへの対応は男性もまた重要であることには変わりない。

男性従事者との決定的な違いは、女性がライフステージ変化の影響を男性よりも受けやすいことである。

多くの社会では、女性が家庭内での主要なケアギバー(子供や高齢者の世話をする役割)として期待される傾向が多い。
このため、急な休みを必要とする状況が男性従事者よりも比較的多く発生しやすい。

出産や育児など、女性は特定のライフイベントにおいて長期間の休暇を取る必要に迫られるとされている。
これにより、柔軟な働き方や制度の存在は女性従事者の働きやすさにとって、特に重要であると言える。

デジタルツールの活用により、作業が効率化し、時間や場所の制約なく柔軟に働くことが可能になることにより、先に挙げた社会や家庭の事情に応じて働きやすくなる環境が整う。

また、こうした施策により出産や育児で一時的に仕事から離れた場合でも職場復帰をスムーズにし、キャリアの継続に繋がりやすい。
女性が働きやすい環境を整えることは、組織全体が多様な視点を取り入れて働き方をより良くしていくことに繋げやすくなると言える。

こうしたことは男性従事者にも同様の制度から恩恵をもたらすことができるが、特に女性にとっては、これらの要因が働きやすさに直結しやすいという特徴があると言えよう。

月間の残業時間は適法状態が7割以上ながら月45時間以上残業している建設業従事者も残っている

2024年4月からは建設業にも働き方改革関連法の適用が行われ、全体では適法状態である「残業時間が45時間を超えた月はなかった」回答者が7割近くを占めている。

しかしながら、2023年には回答者の30.8%が月間残業時間45時間を超えていたが、2024年には31.4%に増加している。
「月間残業時間が45時間を超えた月があった」に「はい」を選んだ回答者のうち、2023年は19.8%の回答者が、2024年は16.7%の回答者が毎月45時間以上の残業をしたと選択している。

働き方改革関連法が適用される前後での残業時間を適法状態にすることは建設業にとってまだ取り組むべき課題であり、企業内および業界全体での改善取り組み余地がいまだ大きいと言える。

調査分析のまとめ

「働きやすさ」の向上が見られる

今回の調査結果から、建設業従事者たちが感じる「働きやすさ」は全体的に向上しているといえる。

2024年4月に適用された働き方改革関連法が大きな外的要因となり、デジタルツールの導入や職場環境の整備が進展していると言える。

一方、デジタルツールの導入や環境整備が進展していくことが、従事者たちの関心を「処遇」へと向けさせていることが考えられ、こうした意識の変化については調査を続けることによって明らかにしていきたい。

女性労働者の増加と働きやすさ

前述の働きやすさの向上は、増加を続ける女性の建設業従事者の定着のためにも重要であると考えられる。

特に、ライフステージ変化の影響を男性に比べて受けやすい女性従事者たちが柔軟に働くことを可能にすることは、キャリア形成の促進にとどまらず、結局のところは組織で働く一人ひとりの生活そのものと仕事とが常にバランスしながら在るためにも重要である。

転職者の増加

他業種からの転職者が増加傾向を示している。
転職者を惹きつける要素として「良い待遇」と「やりがい」が挙げられる。

転職してきた従事者の多くは現在の状況に満足しており、「待遇が良いこと」と他業種では得られない「やりがいがある」ことをさらに知られることにより、建設業への関心を喚起したり、転職を促進させたりする要因であると考えられる。

残業時間の課題

働き方改革関連法の適用後も、月間残業時間が45時間を超える従事者が依然として存在し、さらなる改善、継続的な対策が必要である。

最後に:デジタル化、時間管理のその先を共に!

デジタルツールの導入は既に一定の成果を上げているものの、今後はその先を共に考える段階に来ているという仮説を強調したい。

従事者たちの関心が処遇の改善へ向き始めていることから、当社は建設業界は単なるデジタルツールの導入に留まらず、働きやすさや総合的な待遇の向上を業界全体と共に目指したい。
これにより、業界全体の効率が高まり、働き手のモチベーションも向上するだろう。

さらに、転職者と女性従事者の増加傾向が見られる中で、建設業界も文字通りのダイバーシティ&インクルージョンを真に推進する必要がある。

多様なバックグラウンドを持つ人々が集まることは、組織に新たな視点やアイディアをもたらし、そのことは効率的な働き方や柔軟な制度設計を過去のままにはしないはずである。
これは新規参入者のみならず、長年業界で働いてきた人々にも大きな恩恵をもたらすものであり、業界全体の活性化、継続に繋がると考えられる。

当社は建設業者として事業を始めた経緯があり、建設業界が直面する課題は未だ自らの課題として捉えている。

建設業は社会基盤を作るという他の業界にはない大きな特徴を持っており、「やりがい」もこの特徴に拠るところが大きい。
建設業が良くなることは、社会が根底から良くなることを意味する。

建設業界の発展は社会全体の質を向上させることに直結するため、当社は事業を通じてその支援を継続していきたい。

多角的な視点から建設業界を見つめ、新たな時流に沿った課題抽出、問題提起のためにこの調査を続けて次回は先に述べた仮説立証を行いたい。

以上


2024年11月公開:2024年10月度調査結果は以下

建設業従事者の「働きやすさ」「働きがい」に関する調査レポート

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