建設業従事者の「働きやすさ」「働きがい」に関する調査レポート

はじめに

建設業では2024年4月から働き方改革関連法が適用されました。
各社は法令遵守のために主としてデジタル推進を中心に効率化を進めています。

そこで、従事者の皆様を対象に現在の働きやすさや働きがいに対する実感と、建設業の10年後、建設業の魅力、今後取組むべきことなどを調査し、分析したのが本レポートです。

スパイダープラスではコーポレート・アイデンティティとして「&Co.ともに」を掲げています。
保温断熱工事の請負業者から始まり、自分たちの仕事をラクにしたいと建設DX事業を始め、2021年3月には建設DX銘柄として史上初の株式上場も果たしました。
事業を「ともに」成長させていくにはお客様の存在が不可欠であり、プロダクトのあり方から機能の開発をともに議論し成長してきました。

こうした背景を踏まえ、よりよい建設業のあり方を広く「ともに」考えていくことを目的に、本レポートを公開いたします。

調査概要

  • 実施時期:2024年4月、10月
  • 対象業種:建築、土木、設備、設計の建設業従事者
  • 対象地域:日本全国
  • 対象年代:20-60代
  • 対象人数:2,500名
  • 調査方法:インターネット調査

調査結果と分析

「現在仕事をしていて働きやすい」と感じる従事者が半年間で増加

現在仕事をしていて「働きやすい」と感じていますか?という問いに対し、4月と10月の半年間では「はい」と回答した人の割合が5.4pt増加しています。

半年の変化の背景として考えられるのは、法適用をきっかけとする「働き方改革の取り組み」です。

働き方改革の継続が生み出す「働きやすさ」の増加

第1回のアンケート調査を行った2024年4月は、建設業に対して「働き方改革関連法」が適用された時でした。

建設・運輸・医療などの業界は、他の業界より5年の猶予期間を与えられ、労働時間が上限に収まるよう、2024年4月以前から働き方改革に取り組んでいました。
建設業を対象にした働き方改革関連法では、罰則を伴う残業時間の上限「月間45時間」に合わせた時間管理が主なテーマです。

施工現場における施工管理業務は、雑務を大量に含みます。
具体的には、現場で撮影した工事写真の整理、検査記録のまとめ作業、施工報告書の作成に伴う紙を介した事務作業などです。

写真や紙の作業に忙殺されることから、現場を見ることや、現場でしかできない、いわば「コア業務」に限りある時間を割くために、建設業各社ではデジタルツールを導入することにより、数多の雑務を可能な限り少なくし、それらの積み重ねの末に残業時間の削減を実現しています。

2024年4月時点での働きやすさは、2024年4月よりも前からの取り組みに負うところが大きいと考えられます。
法適用よりも前から始まった働き方改革の取組がさらに継続したことにより、2024年4月から10月の半年間で5.4ptの増加になったと考えられます。

施工管理現場のみならず、内勤者においても、法適用をきっかけとしたデジタルツールの導入による働き方改革が進んだことによって、紙を中心とした業務で余儀なくされていた様々な雑務から開放されたことが「働きやすさ」の実感につながったと考えられます。

現在の「働きやすさ」に続いて、従事者たちが考える建設業の未来予想はどんなものでしょうか。

10年後の建設業は「今よりも良くなっている」と思う割合が半年で増加傾向

「10年後の建設業は今よりも良くなっていると思うか」に対し、「はい」を選択した回答者は3.8pt増加しており、「働きやすさ」の向上が今後も続くことへの期待が現れていると考えられます。

同じ問いに対し、「いいえ」を選択した回答者は3.8pt減少している一方、割合そのものは4月、10月とも60%を上回っています。

「はい」の背景に見る、働き方改革とデジタル化

「10年後の建設業は今よりも良くなっているか」の問いに対して「はい」を選択した回答者にその背景を尋ねたところ、4月時点では「働き方改革が進んで制度が改善される」が最多で57.2%を占めました。

10月時点では同背景が最多ながら選択した回答者は3.9pt減少しており、逆に「デジタル化が進んで作業の手間が省ける」と選択した回答者が3.3pt増加しています。

「働き方改革」は法適用など、外的要因が大きい一方、デジタル化によって作業の手間を省くことは、現場のニーズによるものと言えます。

2024年4月に照準を定めた働き方改革と、現場のニーズによるデジタル化の推進の2軸の取り組みにより、10年後の建設業は今よりも良くなると考えていることが背景にあるものと考えられます。

 

「いいえ」の背景に見る、人手不足問題への強い意識

「いいえ」を選択した背景として、最多を占めたのは「働く人間の数が足りない」でした。

4月時点で54.4%だったのが半年間で1.0pt増加し、10月には54.4%を占めています。
デジタル化を中心とした働き方に関する取組みが進んだ一方、建設業が恒常的に抱えている人手不足問題に対する課題意識が強いと考えられます。

また「働き方の制度が改善されない」は4月の30.9%から半年後の10月に28.3%と、2.6pt減少しており、働き方の制度改善の実感が現場にあると考えられます。

 

勤務先のデジタル化推進のポイントは「上層部の理解」

勤務先のデジタル化推進が「十分進んでいる」「比較的進んでいる」と選択した割合は半年間で1.0pt以下であり、企業が2024年4月以前からデジタル推進に取り組んできた結果の現れと言えます。

「十分進んでいる」「比較的進んでいる」を選んだ背景として、「上層部の理解がある」「導入のための予算がある」の2つが上位を占めており、特に「上層部の理解」については半年で2.9pt増加しています。

施策そのものへの取り組みが2024年4月以前から行われ、継続する途上で「上層部の理解」を現場が感じやすくなっていることが考えられます。

会社の規模ごとの傾向

勤務先のデジタル化推進が「十分進んでいる」および「比較的進んでいる」を選んだ回答者の割合は半年間で0.5ptにとどまります。

「十分進んでいる」を選んだ回答者は全体的に半年間で増加しており、30名未満の企業規模では1.6%から3.2%に増加しています。

「比較的進んでいる」を選んだ回答者のうち、30名以上100名未満の企業規模では半年間で26.8%から32.1%と5.3pt増加しており、最も大きな変化を見せています。

勤務先の規模が大きくなるにつれ、デジタル推進の進み具合の半年間の増加幅は小さくなる傾向が見られました。
勤務先の規模が大きくなるほど、2024年4月より前から対策に取り組んでいたため、規模の小さな勤務先ほど半年間での変化を感じやすいことが調査結果から見られます。

 

デジタル化推進の背景評価は?

4月、10月双方の調査では勤務先のデジタル化推進が「十分進んでいる」「比較的進んでいる」を選んだ回答者を勤務先の規模ごとに分析すると、「使用方法を習得する時間がある」が企業規模30名未満では4月の12.2%から10月には16.9%と4.7pt増加しています。

また、100名以上の規模では「上層部の理解」が100-300名規模では4月の36.6%から39.6%、300-1,000名規模では36.5%から50.0%、1,000名以上規模では36.7%から38.2%とそれぞれ増加しています。

これらのことから、企業のデジタル化推進についての実感が増加傾向にあり、さらなる推進のためには上層部の理解と、組織的なツール活用がカギと言えそうです。

 

これからも建設業で働き続けようと思うのは「やりがい」がポイント

「これからも建設業で働き続けようと思いますか」という問いに対し「はい」を選択した回答者は4分の3以上にのぼり、半年で1.5pt増加しています。

「やりがい」が分ける働き続けることへの意欲

「これからも建設業で働き続けようと思いますか」の問いに対して「はい」を選択した回答者のうち、増加傾向を見せているものには「待遇の満足」「やりがいがある」の2つが並びます。

「待遇の満足」は2.1pt増加しており、2024年4月の法適用により、労働時間や休暇などの要素が改善され、総合的な待遇満足度が増加傾向を見せていると考えられます。

一方で同じ問いに対して「いいえ」を選んだ回答者は全体の4分の1を下回り、「働く環境がよくない」が半年で3.5pt増加、「やりがいがない」が1.0pt増加しています。

「待遇に不満足」「労働時間が長い」を選択した回答者は半年間で減少していることから、継続的に働く意欲を生み出す要素として「やりがい」の問題は大きいと考えられます。

 

新規入職者増のための、「情報発信」と「デジタル活用による効率化」

増減に見る従事者たちの実感と課題

建設業従事者が新規入職者を増やすためにしたほうがよいこととして、「長時間労働の改善」が半年間で3.8pt減少しています。
2024年4月にあった働き方改革関連法の適用に備えて各社が労働時間削減対策を進めたことが反映されていると考えられます。

また、「待遇の改善」も半年間で2.9pt減少しており、このことは前述の「これからも建設業で働き続けようと思う」に対して「はい」を選択した回答者が「待遇への満足」を選択していたことと共通すると考えられます。

「良くなっていること」をもっと知ってもらうために

増加傾向を見せた選択肢には「仕事の仕方に関する情報発信」が半年間で3.3pt、「デジタル活用による効率化」は3.0pt増加しています。

前述のように、半年の間に従事者たちにとって「働きやすさが向上」しており、総合的な待遇がよくなっている実感があり、さらにはデジタル推進の取組が組織的な理解のもと進んでいることから10年後建設業界はさらによくなる期待も増加しています。

建設業界では働きやすさや待遇の向上について実感が増えていること、そこから将来への期待も増加傾向にあることが調査から見られます。
従事者たちの実感とともに具体的な働き方について発信することで、建設業に対する認識を改め、関心を持つ人を増やし、新規入職の裾野を広げるための取り組みが必要だと考えられます。

 

建設業の魅力を担う働きがいのポイントは

「建設業は魅力的な業界だと思いますか」との問いに対し、「はい」を選んだ回答者は半年間で7.2pt増加し、「はい」と「いいえ」が10月度の調査ではちょうど50%ずつとなりました。

「社会基盤づくり」「手を動かす喜び」建設業ならではのやりがい

「建設業で働くことの魅力」について、2度の調査で最も多い選択肢は「社会基盤を作る仕事であること」であり、4月は35.1%、10月には36.3%と1.2pt増加しています。

また「手を動かす喜びがあること」は半年間で3.2pt増加しており、「働きがい」をなす一要素であると考えられます。

「待遇が良い」は半年間で5.1pt増加しており、全選択肢の中で最も大きな増加幅となりました。
働き方改革関連法が適用されて時間が経過したことが背景にあると考えられます。

道路や橋、ビルなど、私たちの生活を支えるインフラを整備することで、建設業は地域社会の発展に寄与しています。
このような大規模なプロジェクトに携わることは、大きな責任とともに、社会に貢献しているという実感を得られます。

建設業での成果は地図や歴史に残ります。

完成した建築物やインフラは長い年月にわたり人々の目に触れ続け、その存在が地域のランドマークとなることもあります。
自分の手がけたプロジェクトが後世にまで残るというのは、他の職業ではなかなか味わえない特別な達成感です。

現場レベルではデジタル推進によって働きやすさが向上し、法整備などの外的要因によって総合的な待遇が改善され、その中で建設業だけが持ちうる魅力が保持されることで、建設業が魅力的な業界であり続けると考えます。

 

さらなる働きやすさ、働きがいのための提言

半年で2度にわたる調査を行い、建設業界が働きやすさの向上に積極的に取り組んでいること、従事者の間にそれらが実感として伝わっていることがわかりました。

変わり続ける働き方と変わらぬ魅力の保持

法適用を大きなきっかけとするデジタル化の進展が現場業務の効率化を促進し、労働環境は着実に改善されています。

これにより、10年後にはさらに働きやすく、待遇も向上していることが期待されます。

また、建設業特有の魅力である社会基盤づくりという大きなやりがいも変わらず、多くの人々にとって魅力的な職業であり続けています。

 

続く人手不足の課題への対応

しかし、長年続く人手不足問題は依然として大きな課題として残っています。

この課題を克服するためには、新規入職者の確保が不可欠です。

建設業界が実際にどのように働きやすさを改善しているのか、具体的な働きやすさの向上や業務の効率化に関する成功事例を積極的に社会全体へ伝えていくことで、建設業に対するイメージを刷新し、潜在的な求職者の認知を得ることができると考えます。

建設業界が新しい人材を引き寄せ、持続的な成長を遂げていくために必要なこと、それは情報発信によって建設業の魅力を伝えていくと共に、デジタル技術を活用した効率化を推進することが重要と考えます。

引き続き建設業界の健全な継続に向けて、「仕事が楽しい」「働きやすい」と感じられる環境作りを進めていくこと、共に未来を築く意識を持ち、業界全体で協力し合いながら、より良い職場環境を目指していくことが重要です。

私たちも建設業界が未来に向けてさらなる発展を遂げ、多くの人々にとって魅力的な選択肢となるよう引き続きサポートしてまいります。

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