S+がエンジニアの評価制度に「市場評価」を反映して気付いたこと、よかったこと
S+がエンジニアの評価制度に「市場評価」を反映して気付いたこと、よかったこと
<登場人物>
山根:ベンチャー企業の採用ブランディング・人事採用支援を行っている株式会社ポテンシャライト 代表取締役
石井:VPoE
川合:執行役員兼 HR室長
阪田:HR 組織開発チーム担当
こんにちは!業務効率化アプリ『SPIDERPLUS』を開発・販売する建設Tech企業、スパイダープラスの採用広報担当です。
今回は、S+で2021年5月より導入されているエンジニアの評価制度についてご紹介します。この評価制度では、「市場評価」が社内の評価に反映される仕組みになっています。人事・エンジニアチーム・外部パートナーであるエージェントを巻き込んでの新たな取り組みの裏側には、S+ならではのキャリア開発に対する考え方が込められています。新しい評価制度の立ち上げから実施まで携わった4名で、取り組みの背景や実施後に感じた効果や新たな気付きを話し合いました。
「個の力」が生きる時代だからこそ、評価にもマーケット軸を
――S+でのエンジニアの評価制度の特徴を教えてください。
川合:
S+では、エンジニアの社内評価の際、「市場評価シート」というものを作成してもらいます。「市場評価シート」とは、エンジニアの方々に過去の経歴に加えて、S+で取り組んできたことを記載してもらう職務経歴書のようなものです。この「市場評価シート」を外部人材エージェントの方に提出し、「マーケットで提示される想定年収」「今もしも転職活動をしたら、自分にはどのくらいの市場価値があるのか」など、エンジニアとしての強みや今後のキャリア開発におけるフィードバックをもらいます。このフィードバックをエンジニアの評価軸のひとつとして活用しています。
S+では、2021年の通期評価からこの仕組みを導入しました。今後も、年1回のスパンで継続的に行う予定です。
――なぜ「市場評価」を取り入れようと思ったのですか?
川合:
きっかけは、「社内における評価だけで果たして本当に従業員の正当な評価と言えるのだろうか?」「本当に納得のいく評価を行うにはどうしたらいいか?」という疑問を持ったからです。
採用のタイミングでは市場での評価で年収が決まりますが、社内に入ってしまうと社内のロジックによる評価になってしまうのが一般的で、気付いたら社外での評価と乖離してしまう。これがエンジニアの離職を招いてしまう要因のひとつではないかと思ったためです。
また、社員一人ひとりの能力・キャリア開発をもっと強化したいと考えたこともきっかけでした。常に社外での評価も意識しながら社員が学び続けることはもちろん、その上長も社外を意識しながら社員一人ひとりのキャリアアップを支援していくことが必要だと考えたからです。
これまでの終身雇用の価値観がある中では、その会社に活用できる特定のスキルを身につけるだけで問題ありませんでした。ですがこれからは、より個人の力がフォーカスされていく時代。個人の成長なくしては会社の成長も実現できません。会社が個人の成長を支援する仕組みや評価を行うことで共に成長していく、それを実現したいと思いました。
そこで、評価軸に「市場評価」を取り入れて、社員が社外でも通用するスキルの開発に前向きに取り組める環境をつくりたいと考えました。
――まずエンジニアという職種に対して取り入れたのには理由があるのでしょうか?
川合:
本来ならば、市場評価の仕組みは全社的に取り入れたいと思っていました。ですが、周りの企業を見てもあまり前例のない取り組みだったため、まずはスキルを明文化しやすいエンジニアの職種から導入することを決めたんです。
エンジニアの開発環境は変化が激しく、トレンドの言語や技術などを常に勉強していないと、時代に取り残されてしまうと言われています。社外の視点を取り入れたキャリア開発をしていかないと、いざ次のステップに移りたいと考えたときに、望む未来を得られにくくなってしまうかもしれません。
第三者視点だから提供できるフィードバックが、エンジニアへの訴求にもつながる
――山根さんは、S+の人事・VPoEの石井さんと共に、エージェントの立場で制度の企画から「市場評価シート」の作成や運用までを担当されたそうですが、最初にこの取り組みをお聞きしたときはどんな感想を持ちましたか?
山根:
まず率直に感じたのは、エンジニアの方に対する評価に第三者視点が入るのは、納得感があって面白そうな取り組みだということです。これまでに経験をしたことがない業務でしたので不安もありましたが、僕はこれまで15年間ほどエンジニアの方のキャリアを見てきた経験があるため、S+さんにとっても僕が適任かもしれない?と思い、受諾をいたしまして、すぐに話が進んでいきました。
エンジニアの方は、自身のキャリアを客観的に評価いただく際に転職エージェントを使うことが多いかと思います。ただ、転職エージェントは、求職者の方の転職先を見つける(決める)ことが第一目標になるため、エンジニアの方の市場価値を正確に評価をするというよりは、「どの企業さまが入社決定しやすいか」という視点がときに強すぎてしまいます。
今回はそういった視点をいったん脇に置いて、エンジニアの方が転職市場においてどのくらいの価値を持っているのかを正当に客観的にフィードバックさせていただくという取り組みです。エージェント側の目的が「入社決定をさせる」ことにフォーカスしてしまいがちな中、利害関係がない状態での市場評価をさせていただくことは、自分にとっても大変勉強になりました。
――エンジニアは市場価値が高騰していると言われていますが、実際にはどんなことが起こっているのでしょうか?
山根:
やはり、エンジニアの採用競争は年々激しくなっていると感じています。極端な話、100社で1人の優秀なエンジニアを採用するために必死に競争をしているという状況です。
そのため、引く手あまたのエンジニアから興味を持ってもらうためには、彼らにとって面白い環境や面白いプロダクトが揃っていることが最低条件と言えます。そんな中、S+さんの今回の取り組みは、エンジニア採用においてもとてもポジティブな影響があると感じましたね。
――「市場評価シート」の作成や実際の評価にあたり、難しかった点や工夫した点を教えてください。
山根:
初めての取り組みだったので、定義を1から作っていかなければならない点はやはり大変でしたね。私はHRのプロではあるけれどエンジニアではありません。それゆえ、技術的な記述についてどこまで理解して評価に盛り込むかは、VPoEである石井さんや人事の皆さんとも細かく相談しながら進めていきました。
また、普段の転職支援では求職者のヒューマンスキル/ソフトスキルも重視するため、「この方は社内において技術力よりも人柄で評価されているのかもしれない」と推測を入れてしまいがちで。今回はあくまでも「市場評価シート」の記載内容で純粋にエンジニアとしてのスキルをフラットに判断させていただく、という点を心がけました。
ちなみに、私は評価対象となったエンジニアの方々の実年収を知らされていません。もちろん、第三者の私がフィードバックさせていただく想定年収は一つの参考材料にしかすぎないと思います。ですが、実態と大きく乖離のある額を提示してしまったらどうしよう……と不安にもなりました。もしかしたら、ご本人のその後のキャリアや人生を変えてしまうかもしれませんから。第三者視点で正当に市場評価をすることと、現場のエンジニアの方々にきちんと価値提供できるかという2点は、かなり意識したポイントです。
――続いて、VPoEの石井さんにお話を伺います。エンジニア視点で考える「市場評価シート」の良さとは何でしょうか?
石井:
これまでの経験上、エンジニアの評価の難しさは、2つの視点があると思っていました。この「市場評価シート」の取り組みは、それらを解決する手段として非常に有効だと感じています。
エンジニアの評価を難しくしている理由の1つは、「エンジニアはスキルがあればあるほどよい」というなんとなくの”ものさし”が存在してしまっているところにありそうだなと。スーパーなエンジニアがいればなんとかなる、と言う思いが無意識にある気がしています。
いかに良いプロダクトやサービスを生み出せるかは、チームでのモノづくりにおいて最大限に個のポテンシャルを発揮できるか、にあると考えています。エージェントの方から社外評価をしていただくことによって、新しい”ものさし”に客観性が入り1つ目の視点をカバーする仕組みができるという期待がありました。
もう1つは、自身の価値を総括するエンジニアの言語能力の問題です。本当は卓越した技術を持ち合わせていても、やってきたことをうまく数値化・言語化できない方は少なくありません。それだと、企業名や手がけたプロダクトの規模・知名度など、トラックレコードの表面だけで価値を捉えられてしまう可能性もあります。
そのような流れを変えていくためには、エンジニアは自分のキャリアをマーケットにきちんと伝えていくことも求められます。「市場評価シート」には、「価値を正確に伝えるために、職務経歴にこんな点も盛り込んでみてはどうか」という客観的なフィードバックを得られる機会があるので、価値を伝える力を鍛えるにはもってこいの仕組みなんです。
――転職活動の場でも職務経歴書に直接フィードバックを得られることはあまりないので、エンジニアにとっても画期的な取り組みなんですね。実際に、現場の反応はどうでしたか?
石井:
もちろん、「書くのが大変だ」という声もあります。ですが、先ほどお伝えした通り、自身のやってきたことがどうしたら第三者に正しく伝わるかを訓練する機会にしてほしかった。「書くこと」自体が目的にならないように、皆さんにはマネージャ陣からその意図を伝え続けるようにしました。
自分のやってきたこと・今後やりたいことに対して、他者はどのように判断するのか。そういった主観と客観のギャップを把握することができれば、自分にとってより良いキャリアを築いていけるはずです。今回の「市場評価シート」をその足がかりにしてもらえたらうれしいですね。
個人の成長と会社の成長がリンクする持続的な仕組みを
――お三方にお伺いします。「市場評価シート」の導入によって感じた効果について教えてください。
石井:
最近では、新たな業務に取り組む際に「これを経験できたら『市場評価シート』にも書けるね」という話が少しずつですが出てくるようになりました。徐々にこの制度がもっている可能性に気づく人が増えてきているのではないかと感じます。
やっぱり、自分のやってきたことに対してプロのエージェントから利害関係がない状態でフィードバックをいただけるというのは非常に面白いですよね。自らのバリューに敏感なエンジニアは、こういった制度がなくても頻繁に職務経歴書を更新していると思います。S+で働くことのベネフィットとしてそういった習慣も身に付けられる。だとしたら素晴らしいことではないでしょうか。
阪田:
人事は、開発現場で普段どういう会話がなされてるかを細かくは知りません。ただ「市場評価シート」のフィードバックを経て、人事と評価者である上司、役員同士で「このメンバーはこうやって育てたほうがよいのでは」とより前向きな議論ができるようになりました。
S+が求めるスキルを発揮してもらうためというよりは、個人としてのキャリア開発やスキルアップにフォーカスして話し合っている時間だなとすごく感じていて。2021年に第1回目を実施したばかりですが、関わる全員が幸せになれる制度なのではないかと確証を得ています。
山根:
実際に、S+さんのエンジニアの方からも「フィードバックをもらえてよかった」というお声を多数いただき、うれしかったですね。
以前、エージェントとしてお付き合いをしている企業様から「経験が長いからそろそろ昇格させないと文句を言われそう……」と正当な人事評価から離れた判断をしてしまうこともあると聞きました。
そのときに、第三者であるエージェントが市場評価に基づいた客観的なフィードバックができると企業様にとってもメリットが大きいのではないでしょうか。
人事評価は、社内でもとりわけ重要な業務の一つだと思います。そこにさまざまな方のキャリアを見てきたエージェントが加わることで、新たな価値の提供をできる可能性が高いと感じています。
――最後に、S+として人事制度に込めた思いや今後の展望を改めて聞かせてください。
石井:
「もし市場評価のほうがS+での社内評価より高ければ、すぐに転職してしまうのではないか」と言われることもあります。だからこそ、優秀なエンジニアが「ここで働きたい」と思えるように、S+はビジネスも技術も文化も魅力的な状態であり続けなければなりません。良い緊張感を保ちつつ、個人も組織も発展していけたらと考えています。
そして、次回の市場評価の時には山根さんに「いち年で追加された皆さんの実績が多すぎてフィードバックが間に合いません」と言ってもらえるようにしたいですね。
阪田:
「市場評価シート」は、企業側・労働者側、どちらにとっても非常にポジティブな取り組みだと実感しています。双方にとってこれまで以上にフラットな評価が行えるだけでなく、評価軸が加わることによって、市場目線を意識した個人のキャリア開発ができるようになるのが最大のメリットです。
社員一人ひとりが常にスキルを磨き続け、新規事業に取り組んだり勉強したりすることで、個人がどこでも活躍できるようなスキルを装着できる。会社としても、最新の技術や情報を社内に取り込みやすくなる。そんな良いサイクルを回せるようにしていきたいですね。
S+では、キャリアの考え方として「途中下車、途中乗車OK」と伝えています。会社も急成長する中で、「今のフェーズだからS+に参画したい」「今の開発案件が終わったら、また別のステージで自らのキャリアを伸ばしていきたい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
個人のキャリア開発の道中で、S+から一時期離れることがあったとしても、個人のキャリアの可能性が広がっていくと、また大きくなったS+で働きたいとご縁が重なるタイミングも増えてくるのではないかと思います。それは会社にとっても良いことですし、いつでも歓迎します。今後も、個人も会社も持続的に成長していく環境をつくっていきたいです。
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