2025年10月版建設業従事者の働き方に関する調査レポート

目次

「働き方改革関連法」適用2年目:人手不足の課題を抱えながら働き方と意識には「改善」の兆し

はじめに

本調査は、2024年4月の法適用以降に進む建設業の働き方改革を扱う。
最初に残業実態という問題を示し、次にデジタル化の前進と停滞という対策とギャップを整理する。

そのうえで働きやすさという短期的な成果を検証し、最後に将来展望という中長期の期待と不安を描く。課題は大きい。
しかし、整理整頓や設備の分離、そしてデジタル運用という小さな前進の積み重ねが体感を押し上げ、将来の期待にもにじみ始めている。
データと現場の声を往復しながら、次の一歩を具体化することを目的とする。

調査概要

  • 調査時期:2025年10月
  • 調査対象:日本の建設業従事者(男女、20代〜60代) 、2,500名
  • 調査方法:インターネット調査

第1章:「法適用2年目」の残業時間―現場にとどまらない課題とは

現場従事者の34.7%、内勤者の23.2%が45時間超えを経験

長時間労働を押し上げている中核要因は何か。
課題は現場固有ではなく全社的な視点でどう位置づけられるか。


法適用2年目の現在地を把握するため、建設業従事者2,500名への調査を実施した。
2025年上半期に「45時間以上の残業があった月がある」は28.5%。そのうち「毎月45時間以上」が23.4%であった。

属性別にみると、現場が34.7%、内勤が23.2%である。
差分は存在するが、長時間労働は現場のみに限定された問題ではない。業界全体の課題である。

属性別に見ると、「45時間以上の残業があった月がある」は現場従事者で34.7%、内勤者で23.2%であった。

施工管理では工事規模の拡大に伴い図面・写真・帳票などの取り扱い量が増えやすく、業務負荷が高まりがちだが、長時間労働は現場に限られた課題ではない。
内勤においても引き続き共通の論点であると言える。

長時間労働の最大要因は人手不足、アナログ作業も依然重荷

以下のグラフは2024年4月から2年間、半年ごとに調査を実施した結果を比較し、長時間労働の要因の変動を示している。

半年ごとの推移では、最上位の要因は一貫して「人手不足」である。
割合は58.1%、58.1%、55.3%、60.2%で推移した。

次に「工期の短さ」が続き、24.5%から28.4%で推移している。

「アナログ作業の多さ」は17.3%から15.2%へと緩やかに改善が進んでおり、引き続き取り組みの余地があると考えられる。

まず人手不足が担当業務の過密化を招く。
次に短工期が調整余地を小さくする。

さらに紙の取扱い、情報検索、連絡の非効率といったアナログ業務が負荷を押し上げる。
現場では図面、写真、帳票の取り扱い量と移動負担が、内勤では情報探索、承認、連絡のプロセスが、それぞれ共通構造の形で表れているのではなかろうか。

2年間の推移に見る、残業時間の要因とは

「人手不足」は常に55〜60%で推移し、全期間で最も高い割合を示す主要因となっている。
「工期の短さ」は24〜28%と安定しており、恒常的に負担として指摘される傾向が続いている。
「アナログ作業の多さ」は15〜18%で推移し、わずかに減少傾向を示しつつも一部では課題が残っている。

長時間労働は人手不足を中心に、短工期とアナログ業務が重なることで生じる全社的な構造課題であり、改善の方向性も明確である。
次章では、各社が推進するデジタル化の取り組みについて、領域ごとの進展と伸びしろを整理する。

第2章:デジタル化の前進と停滞が併存する建設業の現在地

デジタル化とアナログ依存の二面性

第1章の構造要因に対して、DXがこれまでに前進させてきたことと、改善余地について


体感値にも芽生える建設業のデジタル推進

2024年4月から2025年10月までの4回の調査では、「勤務先のデジタル化は進んでいる」と感じる回答が35.6%から41.0%へと増加を見せている。
一方、「進んでいない」との回答は64.4%から59.0%へと減少しており、否定層が少しずつ縮小している点が特徴である。

過去2年間の調査では、いずれも過半数が「不十分」と捉えているものの、肯定層が毎回増加していることから、各社でのデジタル化の取り組みは確実に前進しているといえる。
建設業従事者の体感にも変化が表れており、まだ道半ばではあるものの、デジタル化が浸透しつつあると考えられる。

評価ポイントは効率化、アナログ残存が課題

建設業従事者が勤務先のデジタル化を「進んでいる」と感じる理由の最多は「ペーパーレス化」(56.4%)で、紙書類の削減が最もわかりやすい改善として評価されている。

続いて「情報の保管」(38.7%)、「コミュニケーション手段のデジタル化」(37.6%)が並び、情報管理や連絡手段の効率化がデジタル化の実感につながっている様子がうかがえる。
また、労働時間管理や休暇申請のデジタル化も2~3割台で挙げられ、業務プロセスの細部にも改善が広がりつつあることが示されている。

一方、「デジタル化が進んでいない」と感じる理由の最多は「紙ベースの仕事が多い」(55.6%)で、依然として紙作業の残存が大きな不満となっている。
次いで「コミュニケーション手段がアナログ」(29.5%)、「過去の情報検索に手間がかかる」(27.3%)が続き、情報共有や連絡体制の非効率さが課題として浮かび上がる。
さらに、労働時間管理の煩雑さや移動負担の大きさなど、現場特有のアナログ運用もデジタル化停滞の背景にある。

全体として、進展を実感する層は業務の「デジタル化された部分」を評価し、実感のない層は「残っているアナログ部分」に不満を抱えていると考えられ、デジタル化の進展と停滞の要因の二極化が特徴として表れている。

次の章では、働きやすさの体感に寄与している具体的要素を整理し、属性ごとの優先順位について考察する。

 

第3章:6割が「働きやすい」時代。建設業の働き方改革現在地

働きやすさの実感は一年前に比べて高まっている

デジタル化の前進と足踏みが同時に見える建設業の現在について


調査では勤務先のデジタル化が「進んでいる」との回答が毎回増加し、取り組みが従業員の体感にも表れ始めている。

一方で依然として過半数が「不十分」と捉えており、紙作業やアナログな連絡体制など、現場に残る非効率さが大きな足かせになっている。
効率化された部分を評価する層と、アナログ残存に不満を抱く層が並存する構造は、デジタル化の二面性を示している。

こうした状況を踏まえ、次章では建設業従事者たちの「働きやすさの実感」を取り上げる。

「働きやすい」が6割超へ――現場の環境改善が着実に体感へつながる

4回の調査で「働きやすい」と感じる割合は2024年4月から2025年10月を比較すると55.8%から63.6%まで増加している。

2024年10月以降はいずれも6割前後で推移している。
2025年10月度では現場従事者の61.5%、内勤者の65.4%が「働きやすい」と選択しており、働きやすさの実感値は職種を問わず、業界全体として概ね同様の手応えを見せている。

一方「働きにくい」と感じる割合は24年4月から低下傾向が続き、25年10月は36.4%と前回調査比で1.2pt増加しているものの、40%未満にとどまっている。

整頓・分離・DXが三本柱—現場の働きやすさのポイントは

以下のグラフは建設の仕事場で働きやすさ・働きにくさを生むのかを性別の違いも含めて調査したものである。
結果として、まずは「片づいて清潔であること」が共通の土台であり、女性は設備を男女で分けること、男性はデジタル環境の整え方を重視する傾向が分かった。

調査から明らかになったのは、「事務所がきれいに片づいていること」が働きやすさの最重要ポイントということである。

書類や備品が散らかっている状態は、男女ともに働きにくさの大きな理由になる。
よって、整理整頓の決めごとづくりと紙の扱いを減らす工夫が必要と考えられる。

加えて、性別で効果の出やすい手立てが分かれる。
女性では「トイレや休憩室を男女で分けているか」が働きやすさを大きく左右し、分かれていない場合は負担が大きい。
仮設を含め、計画的に分け、清潔さを保つ取り組みを先に進めたい。

一方、男性では「デジタルツールが整っているか」が影響する。
デジタル化が整っていないと不満が膨らみ、整えることで日々の仕事が回しやすくなる。

総じて、共通の土台は片づけと清潔、女性には設備の分離、男性にはデジタル環境の整え方が効く構図である。
進める順番は、1) 片づけと掃除の標準化、2) 男女別トイレ・休憩室の整備、3) デジタルの使い方と運用の標準化である。

まず「片づけ」、次に男女別設備とデジタル環境—内勤者の実感が示す優先順位

内勤者の働きやすさについて、男女別に調査結果を分析してみる。
内勤者の働きやすさ実感もまた、第一に物理的な職場環境の整い具合に左右される傾向が見られる。


事務所がきれいで整頓されていると働きやすいと感じる割合は男女とも高く70%以上を示し、逆に乱雑で整頓されていない状態は、双方で働きにくさの上位理由となる。女性では48.8%と、半数近くが選んでいる。

整頓と衛生の基準づくり、書類・備品の定位置管理、紙の削減といった足場固めが出発点である。

内勤者にとっても「トイレ・休憩室が男女で分かれている」ことは働きやすさを大きく左右する要素である。
当該項目について、男性従事者では「働きにくいと感じる」を選択したのは11.5%ながら、女性では倍以上の25.6%が選択しており、未分離は負担感を強める傾向が見られる。

一方、男性では、デジタルツールが導入されることで日常業務が滞りなく進むことが働きやすさの実感を押し上げる傾向が見られ、未導入や運用不統一は不満の主因となりやすいと考えられる。

現場、内勤とも働きやすさの共通の土台は「整った環境」であり、中でも女性には設備の性別分離は大きな要因であるといえる。

土台づくりで働きやすさはまだまだ伸びる―現場・内勤共通の核とは

調査を通じて明らかになったのは、働きやすさの実感を押し上げる共通基盤の明確さである。

現場・内勤を問わず、まずは整頓と清潔が働きやすさの前提となり、そこに女性の負担を軽減する設備の分離、男性の業務効率を高めるデジタル環境の整備が加わる。

働きやすさの実感が一年前に比べて高まっているのはこうした基盤整備が継続して進んできたことによると考えられる。
次の章では、こうした環境変化を踏まえて建設業で働く人々が考える業界の将来展望を見ていく。

第4章:従事者たちの将来展望

働く楽しさは維持・上昇基調。環境整備が支える前向きな仕事観

これまで見てきた残業実態、改善施策、そして働きやすさの実感は、決して課題が解消しきれているわけではない。
しかしその一方で、建設業で働く人々のあいだには「仕事を楽しいと感じる」割合が一貫して過半数を維持し、緩やかに上昇してきたという確かな動きがある。

働きやすさの改善は働く楽しさの底上げに

従事者たちの将来展望は厳しい展望が多数ながら改善の芽が広がる

2024年4月から半年ごとに行なっている調査では、各回とも「10年後の建設業界は今より良くなると思いますか」の問いに対して「いいえ」を選択した従事者が6割を超え、将来観は依然として厳しいものが主流となっている。

ただし、その中でも「はい」を選択した従事者は2024年4月の34.1%から2025年10月の38.4%へと緩やかに上向いており、変動幅こそ大きくないものの改善傾向が続いている
「はい―いいえ」の差も、-31.8ptから直近では-23.2ptまで縮小している。

直近半年(2025年4月→10月)でも、「はい」は+1.8pt増、「いいえ」は-1.8pt減と、わずかながら前向きな変化が続いている。

10年後の建設業が今よりも「良くなる」と考える従事者の背景には、すでに本調査で確認してきた現場改善の流れと呼応する内容が見られる。
「働き方改革が進み制度が改善される」(49.3%)、「デジタル化が進み作業の手間が省ける」(46.0%)といった期待が上位を占めており、日常業務の効率化や環境整備の進展が将来観を押し上げている構図が浮かび上がる。

一方で、「良くならない」と考える従事者の理由には構造的な懸念が色濃い。
「働き方の制度が改善されない」(24.9%)や「作業の手間が変わらない」(11.9%)といった制度・運用面の停滞に加え、最も多いのは「働く人が足りない」(63.2%)であり、人手不足が将来不安の最大要因となっている。

現場・内勤事務所とも改善は進んでいるものの、大きな枠組みが変わることが、将来展望の期待値を大きく変えていくと考えられる。

「働き続けたい」意向は高水準で安定

2024年4月以降、半年ごと4回の調査で「これからも建設業で働き続けたい」と答えた割合は、74.7%(24年4月)→76.2%(24年10月)→75.4%(25年4月)→76.6%(25年10月)と、いずれも7割半ばで推移している。

一方「いいえ」は25.3%→23.8%→24.6%→23.4%と、2〜3割台で緩やかに縮小し、全期間を通じて肯定が大きく上回る構図が続いている。

「働き続けたい」意向は高水準で安定しており、業界全体の改善努力が従事者の定着志向を支える材料になっている。

今後は、現場改善・DX・設備整備といった足元の改善に加え、処遇・制度・人材確保の中長期的な改善を同時に進めることで、この意向を確かな強さへと変えていくことが重要であると考えられる。

おわりに:建設業の未来を共に創るには

本調査を通じて見えてきたのは、課題の大きさと同時に、現場で確実に進む前進の積み重ねである。

残業時間の削減は道半ばながら、働き方改革の浸透やデジタル化の拡大、整理整頓・設備整備といった改善は着実に実感へつながり、『働きやすさ』や『働く楽しさ』は調査期間を通じて上昇している。

将来観にはまだ厳しさが残っており、『10年後の建設業界は今より良くなる』と考える従事者は4割弱にとどまり、人手不足や制度面の不安が根強い。
しかし一方で、『働き続けたい』という意向は常に7割半ばで推移し、多くの従事者がこの仕事に誇りと継続意欲を持ち続けている。

私たちが今向き合うべきは、この前向きな意欲を保ちながら働くことのできる環境づくりである。

人手不足という構造課題に向き合いながら、現場・内勤を問わず整理整頓と清潔の標準化、男女別設備の整備、デジタル環境の整え込み、処遇・制度の改善、担い手確保という複数のテーマを並行して進める必要がある。

現場で積み上がる小さな改善は、確かに未来の期待値を押し上げつつある。
従事者の『働きやすい』『楽しい』という実感が増えているという事実は、業界が前へ進む力をすでに持っていることの証左である。

建設業は、社会を支える根幹の産業であり、その価値はこれからも揺るがない。
だからこそ、希望を見失うのではなく、現場と企業と社会が同じ方向を向きながら、少しずつ改善を積み重ねていくことにより、誇りを持てる建設業を未来に手渡していくことができるのではないだろうか。

以上

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